『つまらない女と結婚するんだね』
化粧直しに行った彼女を見てそう言った。
『お前はいつもストレートだな。それだから友達になったんだけど。』目を細めて話す彼。
『もう好きでもなんでもないんだろ?子供いないうちに別れろよ』淡々と伝えたい事を話す。
『そんなことはないよ』
彼はワインを飲み干した。都合が悪くなると酒を飲むのは昔から変わらない。
そんなに簡単な話じゃない。それに好きじゃないわけでもない。でもタイムマシンがあったなら…
そう言ったところで僕は彼の言葉を遮った。彼女が戻ってきたからだ。
それにタイムマシンはきっと僕らの生きているうちにはうまれない。だから後悔しない選択を常にしていく必要がある。僕らは3分前にすら戻れない。
愛知から東京まで来た自分。久々の再会を理由に僕らは彼女に言付けて2人だけで次のお店へと行くことにした。
専業主婦になりたい彼女に対する不満
彼女への不満を語り出した彼。とあるお見合いパーティーで知り合ったとのこと。話はトントン拍子に進んでいたが結婚が決まってから違和感を感じ始めた。
『あいつは事あるごとに俺の会社名を出すんだよ』
親族との会話はもちろん。友達との電話、果ては近所との付き合いにいたるまで。
そうだった、世界は広い。
泳がないナイトプールで充実をアピールするように、世の中には旦那の会社名や身分でマウンティングをする女もいる。
彼女達の世界は奥深い。
『じゃあなんでそんな女と…』飲み干したドリンク。メニューを選びながら彼を見た。
2軒目に行って僕ははじめて彼の顔をしっかりとみたような気がした。それは彼女といる時とは違うもので、穏やかだけどどこか虚ろな感じが漂った。
ちらほらと見える白髪。そんな彼の表情をより際立たせる。
ああ…彼はやっぱり疲れていたんだ。
発生し続けるノルマ、生産性と比例しない会議、薄い氷の上を歩き続ける人間関係に。
そんなものできっとすり減らされた。
彼の心はどんどん傷が深くなっていき、彼女はそんな彼の隙間へと、するすると入っていったのだろう。
それは彼にとって一時的な気休め、休息ともなったことも事実だろう。僕らは昔から弱かったから。
だから麻薬となったのだ。
いつかきれる。そう分かっていても抜け出せない。
彼女は悪い人ではないが一つ誤解をしている
彼女は彼を心配する。励ます。応援する。
ときにはその声が響くだろう。美味しい料理で仕事に対するモチベーションが高まることもあるはずだ。
しかし一つ誤解をしている。
彼女のライフプランの中には、順調に出世をしていく彼がいるということだ。
29歳で700万を超えた彼の年収。遠くない未来には役も付き1,000万を超えるだろう。
実現性の高い未来にもきこえる。
しかし実はそうではないのだ。
"俺には10年先が見えないよ"
僕らはいつだって踏み外す可能性がある。
・上司にたてつく
・左遷される
・転勤となる
辞めたくもなる
明日にでも起きてしまうそんな可能性、不安。それらを抱えながら生きている。新小岩の電車に飛び込むサラリーマンがそれをきっとあらかじめ計画しないように。
彼女は彼を応援している。しかしそんな彼女の頭の中。
彼が今後歩いていく未来への道ができている。
そしてそのレールから。
彼が外れることを許さない。
共働きになり弱さをごまかせた自分
僕が新卒のときに勤めたホワイト企業。
みんながとても生真面目で、そこには何とも言い表せない同調圧力があった。それは有給取得についてだったり、残業申請や帰宅時間に対する"そんたく"だったり。
入社1年目のあるとき、僕が定時を過ぎて帰ろうとした際の上司の言葉。
それを自分はいまだに覚えている。
『もう帰って大丈夫か?』
僕はそれ以降定時で帰れなくなってしまった。頭にその言葉が何度もリフレインした。
僕には何というか、人が気にもしないようなことをずっと心に取り置きしてしまうようなとても女々しいところがある。
共働きをするようになった自分にとって1番大きなことはそういった言葉だったり、空気また同調圧力が気にならなくなったことだ。
今であればこの言葉に対してどう上司に返すかはさておき頭の中では
・大丈夫じゃないかもね。
こんな感じで諦めがついていて、圧力を感じない。残業する周りのことをバカにしたりもしない。自分は自分だ。
僕は職場のカラーに対して透明になることができる。
それはとても心地がいい。
最後に。専業主婦をもつ君に言うこと
なあYくん。
やっぱりそんな女とは早く別れた方がいいんだ。
あの時僕らは自由だっただろ?
・講義をサボってパチスロしたり
・くだらない企業の面接を無視したこともあったよな
それでも何とかなったじゃないか。
社会に出たからってそれは変わることじゃないんだよ。自由に働く奴らはいっぱいいる。道を狭くしてるのは僕ら自身で、勝手に細くて狭い道を作り上げただけなんだ。
わざわざそんな道を歩く必要なんてない。
あの時と同じ選択肢はまだここにあるんだよ。
僕らは弱さを認めなきゃいけない。
だからやっぱり自由に生きるべきなんだよ。
そんな女と結婚するなよ。
一生奴隷になってしまうぞ。