菊川怜が結婚した相手。僕はその名を聞いて驚いた。
『穐田誉輝』
2016年初頭までCOOKPADの社長を勤めていた人物だったからだ。
しかしその穐田氏。必ずしもその類稀なる能力を背景に順風満帆なキャリアを送ってきたわけではない。
2015年末にはクックパッド創業者の佐野氏と経営方針を巡って対立が表面化、現在は既に社長業だけではなく取締役までも退任している。
当時はお家騒動とも騒がれてニュースになったこの事件。
・一つの事業に対して寿命や成長の限界を考え事業の多角化を図りたい穐田氏
・本業回帰を唱えクックパッドの会員事業や海外事業を進めたい創業者の佐野氏
そんな両者の対立。
雇われ社長であった穐田氏はM&Aを繰り返し、電子出版、ウェディング、求人メディア事業を展開することでわずか4年でクックパッドを時価総額を6倍にするほどの成功を収めた。
しかしそれに対して創業者である佐野氏は『大きな歪み』と批判したわけだから穐田氏にもやりきれないところがあるだろう。
またその会社のトップ交代に対しては多くの株主も失望をした。
事実として佐野氏による経営へとシフトすることが分かってから、同社の株価は2週間で3割も下落した。
- 依然高い営業利益率も昨年対比で減収となった2017年度上半期決算
- クックパッドはオワコン化していくのだろうか
- 国内フリーミアムモデルという成長の限界
- 食メディアトップという立場の危うさと収益構造の抱える矛盾
- 何より怖いGoogle検索のアルゴリズム
- 今後のGoogleは多くのビジネスモデルを食いつぶす
- とはいえ僕は佐野社長をcookpadを応援している
依然高い営業利益率も昨年対比で減収となった2017年度上半期決算
今回僕はその穐田さんについて興味が出たからこの記事を書いたわけでもない。
またそのお家騒動同様にマスコミが囃し立てた彼の『隠し子発覚』なんて話もどうでもよくて。
自分が気になったのは1つ。
クックパッドは社長が変わって業績がどうなったのか。また今後についてだ。
クックパッドはとても分かりやすい決算説明をしてくれているので、まずは直近のそのデータを見てみることにする。
(図はクックパッド IR情報より)
2017年度の上半期の数字、それは同社にまた株主にとって満足な結果とはいえないものだった。
82億の売上があった前年上期対比としてマイナス13.3%の71億円の売上高
本業の儲けを示す営業利益についても37億円と同時期と比べて約4億円の減少となった。
一般的な企業であれば文句の無いその数字。しかしcookpadが1つの成長フェーズを終えてしまったことを示すには十分のデータでもある。
ついにプレミアム会員数が減少になったクックパッド
昨季より議題とはされていたプレミアム会員数の増加の伸び悩み。
今期それがついに会社の業績に対して表面化する数字となった。
会員数の鈍化にとどまらず今期2Qにおいてついにクックパッドはその会員数が減少してしまったのだ。
クックパッド株式会社はその売上のほぼ全て(約95%)が、ご存知Webメディアであるcookpadにより構成されている。
そしてそのクックパッドでの売上のうち2/3についてはプレミアム会員による売上となる。
このことからもクックパッドのプレミアム会員数がどれだけ会社の収益に貢献しているか。
そのイメージはしやすいだろう。
僕のような無料ユーザーを含めれば国内で6,000万人ほどが毎月利用しているクックパッド。
しかしその収益の2/3が200万人にも満たないプレミアム会員数により支えられている事実。
僕はプレミアム会員に足を向けて寝られない。
クックパッドはオワコン化していくのだろうか
ここで少し考えてみる
売上が上がり続けるなんてことは、余程の企業ではない限りそうそうない。クックパッドだってその限りではないはず。だから今期は仕方がないのではないだろうか。
・今後プレミアム会員を増やしていくための事業活動をすればいい。
・無料会員に向けても広告モデルを変更することで新しい収益の形を見出せていけるだろう。
レシピ動画という新たな収益の形も生まれてきた。
しかし僕は今後クックパッドがどのような活動を進めていったとしてもやはりその会社の未来として減収、減益となる道しかみえなかった。
その理由についてを書いてみたい。
国内フリーミアムモデルという成長の限界
フリーミアムモデルというのは基本的なサービスは無料で提供、それよりも深いことをしたければ課金をするといった仕組みのビジネスモデル。
この方法についてはユーザーがそのサービスに触れる機会を増やすことによる間口の広さが大きなメリット。
たとえばカドカワの抱えるWebサービスニコニコ動画が同じような体系。
利用者を莫大に増やしたい、知ってもらいたい。
そう考えればやはりこのやり方は効率が良く、そしてそれはクックパッド成功の原動力ともなった。
しかしそれは、当初に考えられたターゲット全員がそのサービスを知ってしまうようになればどうだろうか。
そのフリーミアムモデルについては主たるメリットを失いつつあるといえる。
ましてや月間利用者が6千万人を超えるようなクックパッドという超規模の母体。それを知らない人はもう多くはない。
そしてその利用者の大半が、お試しのみで満足をしてしまっているという現実もある。
食メディアトップという立場の危うさと収益構造の抱える矛盾
また、その磐石とされる国内『食』メディアトップという危うさについても指摘したい。事実、上に例としてあげたニコニコ動画。
インターネットで動画を見る人であれば数年前は誰にも知られたそのサービス。
しかし昨今その有料会員数は伸び悩み、また減少。
事業として赤字にまで陥っている。
無料ユーザーであった僕でさえそれをもう利用していない。なぜなら代替品を利用しはじめているから。
それがyoutube。
コンテンツの内容についてもさることながら、ニコニコ無料会員時代にはあまり気にならなかったその低画質。
しかしyoutubeという高画質動画が無料で見れることを知ると、それがとても陳腐化して見えるようになった。人は相対的にものを判断するところがある。
今は便利なクックパッド。しかしより便利なサービスが無料ではじまれば。
同じ現象がそこに起きないとは限らない。
ましてやネット事業は参入障壁が低い。
無料部分の開発をおざなりにしていたらすぐに他社がそれに追随をしてくるだろう。
そして例の通り、敵は日本だけに限らない。
レシピ数がNO1であること。それをクックパッドは誇っているようにみえる。しかし僕はその部分に価値を思わない。
多くのユーザーは本当にそれを必要とするだろうか。
『カレー』と検索した時クックパッドは8万を超えるレシピを提示する。
しかし僕らはそんなに情報を必要としているだろうか。カレーは1つしか作れないのに。
いつしか多すぎるそのレシピ数。
それは利用者にとってノイズにもなりはじめた。
もっともそれを人気順で並び替えたいという需要の為のプレミアム会員でもある。しかし果たしてそんな殿様商売はこれからもうまくいくだろうか。
収益構造の抱える矛盾にも指摘したい
無料ユーザーが多いということは直接その収益には結びつきにくい。
しかし昨今多くのウェブメディアが意識している
・ユルイつながり、また情報の信頼性とその厚み
その点で大きな役割を果たすことに違いはなくこの部分をクックパッドはおざなりにできないだろう。
だからこそcookpadはその収益をプレミアム会員ではなくフリーライドしている無料会員への開発へ中心としてあてる必要がある。
しかしそんな国内フリーミアモデルのcookpadの収益構造。
有料会員はいつまで満足し続けれるだろうか。
何より怖いGoogle検索のアルゴリズム
正直なところ僕がクックパッドの未来を憂う1番の理由がココにある。それ程までにGoogleの検索エンジンは進化してきている。
いくつか例を出していく。
・例えば『お出かけ』と検索した場合。
僕の検索結果には愛知子供の遊び場"いこーよ"というサイトが表示される。しかしこの検索結果は人により異なる。僕が東京にいればそれは現地の情報を表示する。
・『名古屋 沖縄』と検索した場合。
Googleが(広告を除き)1番に表示するのはグーグルフライトと呼ばれる、航空券の予約までできるサービス。料金がすぐ確認できる。
非常に分かりやすい。他サイトを見る必要がない程に
・『吉田羊 年齢』と検索した場合。
あれだけ年齢を非公開とする彼女だが3秒で分かるその情報。そしてその下の検索結果一覧にでる無数のWebサイト。これらのページは見るべき価値が非常に薄れた。『年齢非公開の理由は?』なんて情報は大抵のユーザーにとってそれ程興味を示さないだろう。
いくつか例を出したところに共通していること。
それは以前と比べてGoogleの検索エンジンは欲しい情報を手間なくダイレクトに表示するようになったということだ。
レシピ検索にもGoogleの魔の手は忍び寄る
それは料理の検索についても同様だ。
・『カレー レシピ』と調べれば1番上にはS&B
・『シチュー レシピ』であればハウス食品
そしてその下にクックパッドのレシピ一覧をGoogleは表示している。
豊富なレシピ一覧よりも信頼性のあるレシピをGoogleはユーザーにとって価値があると判断したわけだ。
検索結果の順位が与える影響について興味深いデータがあるので貼っておく。
(参照:SEOPack)
その順位が1つでも下がること。それは同社にとって大きなダメージとなりうる。
事実としてクックパッドは今季の決算質疑応答で売上やプレミアム会員低下理由の1つとして大手検索エンジンのアルゴリズムの変化をあげている。
今後のGoogleは多くのビジネスモデルを食いつぶす
そして僕は考える事がある。
今はまだ『料理名 + レシピ』で上位表示されているcookpadのレシピ一覧。
今後もっとその順位は下がっていく= Googleが低品質と判断する可能性があるのではないかということ。
またそれよりも価値のあるコンテンツをGoogle自身が検索エンジン内で作成してしまう可能性もある。
(場所入力のみで1番に表示されるGoogleフライトが観光業各社に与えた影響と損失は大きいだろう)
また、恐らくレシピ数NO1をうたっているクックパッドこそが1番に気づいているかもしれない
レシピを調べる多くのユーザーは
・その料理のレシピを沢山知りたい
というわけではなく
・美味しいと信頼できる(みんなに支持されている)作り方やレシピが知りたい
このことに。
cookpadのレシピ数はGoogleの情報量には及ばない
例えばカレーを例にしてみる。
クックパッドはそれだけで8万以上のレシピを抱えている。プレミアム会員はそれを人気順で並び替える事ができる。
この機能こそがプレミアム会員にとってキモであることは間違いない。
しかし見逃す事ができない点が一つある。
それは無料会員であっても1番人気のあるレシピは探せば見れるという事。
具体的に言えばcookpadは人気ランキングの写真だけは載せてくれているので、それに該当するレシピページを探せばいいということになる。
これにはとても手間がかかる。また、それをなくすためのプレミアム会員でもある。
しかしGoogleがその手間を省いてしまえばどうだろうか。
・クックパッドというウェブサイトにおいて
・該当する料理で1番閲覧されているページ
それを知ることは今のGoogleには難しくないだろう。
いつの日か『料理名 レシピ』と調べた時にcookpadにおける人気1位のレシピが当たり前のように表示される。
それは普通にあり得ることだ。
ただし僕はこの先にもっと怖い事があるように思う。
前述したその例は、あくまで検索する人はクックパッドを訪れてくれる。見てくれればそこに収益のチャンスはある。
いつか、それすらなくなるような気がするのだ。
Googleはそこにインデックスされている無数のウェブページがどれだけの人に見られているか。
それを知ることは容易にできるだろう。
例えば『カレー レシピ』と調べた時、Googleは全ウェブサイトから1番見られている順にレシピを表示することができる。
Googleが示す全ウェブサイトの中でのレシピランキング。それに比べればクックパッドのレシピはもはや質でも量でも勝ちにくい。
その膨大なレシピはもはや価値が薄く低品質。
また、Googleは常にユーザーにとって満足のある体験をさせようとしている。
そして僕が想定する範囲のレベルにあるこの技術。もう実現が可能だろう。
あとはGoogleがそれをするかしないかだ。
クックパッドですらその利用者のほとんどは検索から
しかしクックパッドは僕がそうしているようにアプリでの利用者が多いはず。
だから検索エンジンと独立しているのでは?という見方もできる。
ただこれは半分間違いでもある。
クックパッド利用者割合を見てみるとそれは分かる。
アプリからそのサービスを利用する人の割合、全体ユーザーの15%ほどにしかならない。一部はブックマークからもあるとは言えそのほとんどは検索に頼っているのもクックパッドの現状だ。
作る段階や買い物をする時になって初めてレシピを検索する人が非常に多いこと。それは恐らくこれからも変わらない。
わざわざアプリまで入れる必要は特にない。
多くのライトユーザーの考えはそこまで料理のことを第一に考えていない。そして悲しいことがもう一つ。
アプリのダウンロードはあくまでも何らかの検索によりクックパッドの便利さを知ってから行う場合がほとんどということ。
結局の所
・検索でクックパッドにいきつかなければ
・知ることがなければ
その利用者も下降していくだけだろう。
とはいえ僕は佐野社長をcookpadを応援している
(足取りは重いが着実に海外での利用者は増えている)
ここまでクックパッドの暗い未来ばかりを話してきた
しかしあくまで僕は佐野さんを応援している。
それは彼の『食』事業に対してのこだわりを応援したいから。
彼は今、クックパッドを世界ナンバーワンの食メディアにしようと海外でエンジニアを多く集っている。
事業の多角化や利益の最大化。
それを差し置いて食事業のみに固執してしまうこと。
それは非常に危ないことだ。
事実、サービスは異なるがそれに似た例として。あのパズドラですら世界進出には失敗した。
また日本中でまだまだ人気のあるモンスト。
それですら8月に北米版サービスを撤退、早々に中国版、海外版から手を引いたことを考えると。
国内でどれだけ流行った実績があろうとそれはあくまで指標に過ぎず、世界での人気を獲得することを全く保証しない。
そんなこともあり佐野社長は株主からも大変不人気だ。事実、お土産を廃止したという事もあるが前回の同社の株主総会はその前年と比べ来場者は半数以下となった。
しかし僕は思う。佐野社長には突き抜けてほしい。株主なんて気にするなと。
もとより日本の株主の多くはその企業の長期的成長を見守ることに慣れていない。
配当また株主優待。
そんな日本特有の文化がいつしか株主の企業の見方を本来のあり方から変えてしまった。
とかく株主にたいして媚びる日本の会社ではあるが1番に考えるべきはそこではない。
どれだけ自社サービスを発展させるか。海外のユーザーを勝ち取るか。佐野さんにはそこだけをみてほしい。またそれこそが長期的視点での株主への還元ともなるだろう。
日本発信のウェブメディアが世界に通用している事例はまだなかなか見当たらない。
僕はそれをクックパッドに達成してほしいのだ。
まあ優待消されると困るんだけどな( ´_ゝ`)